365のお題

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  5 サクラ (現代風な物語)  

「あ、桜」
 すぐ近くで聞こえた声に私は顔を上げた。
 その言葉につられるように電車の窓から外を見る。
 いつも外なんて見ていなかったから、気がつかなかった。
 線路沿いに、桜が植えられている。
 それが満開で、薄桃色の帯のようにずっと向こうまで続いていた。
 今年は、いつもより開花が遅くて、週末にここを通った時には、まだ咲いていなかったような気がする。
 この辺りでは、桜の見頃は大抵3月の終わりだ。
 けれど、今年の冬は寒くて、いつまでたっても暖かくならなくて。
 気がつけば、ようやく蕾が膨らんできたのは、入学式が終った頃だった。
「綺麗」
 もう一度、同じ声が聞こえた。
 そこで、ようやく私は声の主に視線を動かす。
 見知った顔だった。
 クラスメートだというだけでなく、同じ中学出身で、私と同じく電車で1時間もかかる高校に入学した子。
 けれど、話したことは一度もない。
 彼女は、私と違って、中学の時から真面目で大人しかった。いつもふらふらとしていて、授業も時々サボっていたような私とは住む世界が違う―そんな雰囲気の女の子だ。
 もっとも、今の私も彼女も、殆どが地元出身のクラスメートたちの中で、なんとなく浮いている存在だという共通点があったけれど。
 かといって、二人が近づいて話をするということは、今までなかった。
 私がじろじろ見ていたせいなのか、彼女の視線が私の方に向いた。
「……おはよう」
 律儀にそんなことを言ってくるところが、彼女らしい。
「おはよう」
 素っ気無く返事を返すけれど、彼女は私の無愛想な態度を気にしているふうでもなかった。
 そのまま、自然と、私たちの視線は窓の外へ向く。
 前方に駅のホームが見えてくる。
 忘れられたような小さな駅。
 周りには民家も少ない。
 普段から利用する人が少ないせいで、あちこちに世間的には雑草といわれる草が、ゆらゆらと風に揺れていた。
 ゆっくりと、電車は速度を落としていく。
 もうすぐ、駅につくのだ。
「外、気持ちよさそう」
 私が呟くと、彼女が再びこちらを見た。
 私も、彼女の顔を見た。
 二人の、目と目があった。
 相手の顔に、一瞬、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
 ただの優等生だと思っていた彼女の、初めてみる表情だった。
 そして。
 扉が開いた瞬間、私たちは、同時に外へ飛び出していた。


 誰もいない無人駅。
 私たち以外、人も降りない寂しい駅。
 けれど。
 そこは一面ピンク色で。
 風が吹くたびにひらひらと花びらが舞い落ちる。
 柄にも泣く、私は感動してしまった。
「すごい」
 そういった彼女の言葉に、素直に共感できた。
「ほんとに、きれい!」
 私の言葉に、彼女も大きく頷いた。
 私たちは、次の電車が来るまで、いろんな話をした。
 くだらないこと。
 好きもの。
 楽しかったこと。
 話すことはつきなくて、私たちはお互い心の底から笑いあっていた。
 それが、私と彼女の出会い。
 偶然の、でも一生忘れられないだろう瞬間。
 きっと、桜が咲くたびに思い出すだろう。
 次の電車がやってくるまで、1時間もあったことは、誤算だっだけど。


 学校に遅刻してしまった私たちが、遅刻の原因を答えられなくて、二人仲良く怒られてしまったことは、みんなには内緒である。

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