365のお題

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  6 卒業 (現代風な物語)  

「卒業祝いなんだ」
 俺の前で、にやにやと笑いながら、直毅が言う。
 彼の手首には、真新しい腕時計がはまっていた。
 今流行のモデルだ。
「バイトを頑張ったんだってさ。羨ましいだろ」
 顔中が笑顔という感じだ。
 俺は理解に苦しむ。
 彼女からもらったというのならわかるが、送り主はこいつの妹だ。
「シスコンだな」
 俺の言葉に、奴は当然、というふうに胸を貼ってみせた。
「当たり前だろ。加奈より可愛い妹はこの世にはいないぞ」
 そういうことをさらっと言ってのけるところが直毅らしいといえばそうだ。
 奴は普段から自慢話などしないのだが、どうも妹が絡むとおかしくなる。
 年が離れているせいなのか、小さい頃から共働きの両親に変わって面倒を見ていたせいなのか、直毅のシスコンぶりはちょっと大袈裟な気がした。友人達の間でも有名だ。
 だが、反面、俺とは違う家庭環境に羨ましく思うこともある。
 直毅の家族は、皆仲がよい。
 いつ遊びにいっても、家庭内に漂う雰囲気は暖かく居心地がよかった。
 きっと、この卒業祝いも加奈ちゃんは一生懸命選んだのだろう。
「よかったな」
 素直にその言葉が出た。
「だろ? このお返しに今度食事に連れていってやる約束をしているんだ」
 蕩けそうな笑顔とはこういうのを言うのかもしれない。

 だから、俺は黙っていることにした。
 直毅の妹である加奈ちゃんから、卒業祝いとして俺が色違いの腕時計をもらっていたことを。

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