365のお題

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  14 天体 (現代風な物語)  

 さむいー。
 私がそう叫ぶと、後ろに立っているはずの隆哉の笑い声が聞こえた。
 少しむっとする。
 だって、本当に寒いんだもの。
 吐く息だって白いし、吹く風も冷たい。
 出かける時はあまり寒くなかったから、それほど厚着もしてないし。
 せめて手袋くらい持ってくるんだった。
 それとも、マフラーかショールの方がよかったかな。
 少しだけ身を縮めるようにして、もう一度寒いと呟いてみる。
 隆哉からは、何の反応もない。
 幼馴染で、後輩で、どう繋がっているのか説明に難しいほど離れてはいるけど、一応親戚というこの男は、厚着をしているわけでもないのに、寒さなど感じていないかのように平然としている。
 そういえば、夏の暑い時も、梅雨の蒸す時も、こいつの口から「暑い」という言葉は聞いたことがなかった。
「寒くないの?」
「いや、寒いだろ」
 だったら、そういう顔をしてよ。なんだか納得いかないな。
 一人で、寒がっている自分が情けなくなってくる。
「栞」
 笑いを含んだ声が、私の名前を呼ぶ。
 悔しいから振り向かないけれど、そういう時の隆哉は、何かたくらんでいる時だ。
 あるいは、面白いことを見つけた時。
「上、見てみろよ」
 続けられた言葉は意外なものだった。
 上?
 いったい何だろう。
 視線を上げてみた。
「わぁ、綺麗」
 振るような星空というのは、こういうのを言うのだろうか。
 あたりに灯りが少ないせいもあり、空一面に星が輝いている。
 いつもと変わらない道のはずなのに、空なんて見上げることは久しくなかったから。
「そういえば、昔はよく二人で星空を眺めていたよね」
 外で遅くまで遊んで帰った時。
 互いの家のベランダや庭で、二人並んで、よく空を見上げていたっけ。懐かしいなあ。
「俺が星座を教えても、ちっとも覚えてくれなかったよな」
「えー、オリオン座とか、北斗七星とか、覚えてるよ」
「北極星は何度教えても間違えてただろ」
 そんな昔のことを今更言わなくても。
「いいよ、解らない時は、隆哉に聞くから」
「は?」
「教えてくれるんでしょ、もちろん」
「いや、覚えるまで努力しろ」
 顰め面のままで昔と同じことを言う。
 あいかわらず、年下の癖にえらそうなんだから。
 だけど、そう言いつつも、私に甘い隆哉のことだから、文句や厭味を言いつつも、ちゃんと教えてくれるのだろう。
 これで中々面倒見がよいほうだし。
「それにしても、やっぱり寒いー」
 どんどん冷え込んできてるような気がする。
 なので、手近にある存在を湯たんぽ代わりにすることにした。 
「いきなり何してるんだよ」
「抱きついてまーす」
 あきれたような溜息が上から降ってきた。
 小さい頃と同じように。
 だけど、昔と違うのは、二人が幼馴染ではなくて、恋人同士っていうことかな。
「気にしない気にしない。誰も見てないよ」
 そう言いながら、隆哉の顔がもっとよく見えるように背伸びをする。
 少し近くなったその顔は、呆れてるようにも見えたけれど、目は優しい。
「まったく……」
 苦笑とともに、隆哉の顔が更に近くなった。
 軽く触れた唇は、私同様に、冷たい。
 隆哉の背中に回した手に力をこめると、大きな手が私を包み込むように抱きしめてくれる。
 
 お互いの唇が熱を取り戻すのに、時間はそれほどかからなかった。
 二人を見ているのは、降るような星空だけだから―。
 もう少しこのままでいてもいいかな?

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