365のお題

Novel | 目次(番号順) | 目次(シリーズ別)

  19 イエー!!! (こことは違う世界の物語)  

 第一志望の高校の合格発表の日だというのに、朝から、今にも雨が降りそうな天気だった。
 それなのに、傘を忘れてしまったことに、家を出てから気がついて、憂鬱だった気分が更に悪化した。
 初めて見るわけじゃないのに、やけに高校の門が大きく見え、そこに入っていく、様々な制服を着た同じ年の子は、皆自身満々に見えた。
 なんだか、いらいらして落ち着かない。
「……司ちゃん?」
「どわっ!」
 うろうろ、うろうろと門の前を行ったり来たりしていたら、突然声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。
 いつのまにか目の前に人が立っている。
 背が高くて、綺麗な顔をしていて、思わず見とれてしまうその人を、私は知っていた。
「榊先輩? どうしてこんなところにいるんですか?」
 榊先輩は、幼馴染みでもある恭平先輩の友達だ。知り合ったのは、数ヶ月前。それなりに話をしたりする仲だった。先輩は、恭平先輩共々、この学校の生徒だけど、今日は休みのはずだし、普通ならいるはずはない。
「それは、俺が連れてきたからだよ」
 榊先輩の後ろから、見慣れた顔が覗いた。
「あ! 恭平先輩。連れてきたってどういうことですか」
「いや〜、司の入試の結果が気になるから来たんだけどさ。司を見つけて声を掛けようとしたら、百面相しながらぐるぐる回ってるだろ。ついつい見てたんだよな」
「俺は、悪趣味だって止めたんだけど」
 申し訳なさそうに、榊先輩が言った。
 いえいえ、先輩は悪くないです。悪いのは、この男です。
「あんまり顔色もよくないし、いつまでも、校内に入らないし、心配になって声をかけたんだけど…」
 ああ、やっぱり榊先輩は優しい。どこかの幼馴染みとは大違いだ。
「大丈夫、大丈夫。俺が勉強を見てやったんだし、ちゃんと合格してるって」
「恭平先輩は、邪魔してただけじゃないですか」
 暇だ、退屈だなんて言いながら、うちに遊びに来てはご飯を食べたり、ゲームをしたりしていたのは先輩だ。
 そりゃ、たまには勉強も見てくれたけれど。ほんとうに、『たまに』だった。
「ここは俺が受かるくらいだから、それほど難しくないし。それで落ちるようなら、魔法使いになんて、そもそもなれないんじゃないか」
「それはそうなんですけど」
 ああ、なんだか泣きたくなってきた。
 魔法使いになるのは大変だ。大抵の魔法使い志望の人間は、それこそ小学生の頃から専門の魔法学校に通っている。才能も必要だし、お金もかかる。だから、私は中学までは、普通科の学校に通っていた。
 それでも、魔法使いになりたいという気持ちは変わらなかったから、両親を説得し、家から近くて、学費もそこそこで、高校から入れる魔法学校にもし受かったら通っても良いという許可をもらっていたのだ。落ちてしまえば、本当に魔法使いの夢は閉ざされてしまう。
 浪人なんかさせてもらえるわけないし、大学から学んでも腕のいい魔法使いにはなれない。
 だから、受かるかどうかは私にとっては、大事なことなのだ。
「ところで、まだ合格発表は見てないんだろ?」
 榊先輩が、校内と私を交互に見た。
「そうなんですよ! なんだか入る勇気がなくって」
 落ちていたらどうしようとそんなことばかり気になって、中々見に行けない。自分がこんなに臆病だったというのもびっくりだ。
「仕方ないなー。ほらほら、うだうだ悩んでいないで、行ってみろって」
 ふいに恭平先輩が私の手を掴んだ。
 そのままぐいぐいと引っ張っていく。
「わーわー、ちょっと待って! 心の準備が!」
 踏ん張ってその場に留まろうとする私を、恭平先輩が呆れたように振り返る。
「あれだけ門の前で悩んでいたんだから、とっくに心の準備は出来ているはずだろ」
「大丈夫だよ、司ちゃん。ここ、合格率高いらしいし、恭平が、司ちゃんは悪運が強いって言ってたし」」
 榊先輩、それフォローになっていませんから。
 おまけに、いつのまにか後ろに回った榊先輩は、恭平先輩が引っ張りやすいように、私の背中を押している。
「どわ! 何してるんですか!」
 抗議はもちろん受け入れられなかった。


 やけに嬉しそうな恭平先輩と、どこか心配そうに気遣ってくれる榊先輩に引き摺られ、合格者の受験番号が貼られた掲示板の前にたどり着いた。
 結構人がいて、喜んだり悲しんだりしている。
「ほらほら、しっかり見ないと」
 恭平先輩の言葉に、私は覚悟を決めた。
 いつまでもうだうだ悩んでいるのは、性分じゃない。
「わかりました。しっかり確認します」
 しゃきっと背を伸ばして、私は返事をする。
 私は背が低いから、自分の番号を探すのも一苦労だけど。
 えーと、私の番号は……。
「あ、あった! ありましたよ、先輩!」
 間違いない。自分が手に持つ紙に書かれた番号と同じ物が掲示板にある。
「おめでとう、司ちゃん」
「よかったな。これで堂々と俺もこき使える」
 後ろで見ていた先輩たちが、お祝いの言葉を言ってくれる。恭平先輩のは、ちょっと微妙だったけれど。
 でも、嬉しくて2人に飛びついた。
「これからよろしくお願いします」
 そう言うと、「じゃ今日は『宝田や』のクレープをおごってやるよ」という恭平先輩の珍しい言葉に、私は大きく頷いたのだった。

Novel | 目次(番号順) | 目次(シリーズ別)
Copyright (c) 2008 Ayumi All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-