駅前の小さな公園に設置されたベンチから上を見上げると、白い線が青い空を横切っているのが見えた。
左側は細く、右へいくほど太く曖昧になっていく。
さっきまではなかった気がするから、目を瞑って考え事をしている間に出来たものなのだろう。
青い空には、他には何もない。鳥さえも飛んでいない。
そして私は……ヒマだ。
どうしようもなく暇だ。
とりあえず、そのことが頭の中をしめている。
時刻はちょうど午前11時。
夏も終わろうかという時期だけど、まだ暑い。木陰にいるとはいえ、じわじわと感じる暑さに、私はため息をつく。
「暇」
声に出していってみる。
「ひ・ま・だ」
人文字ずつ区切って口にしてみる。
「暇なんだけど」
怒ったように言ってみたが、当然返事はなかった。
空では、飛行機雲が、もう半分ほど崩れた状態になっていた。
ちなみに、私がここへ来たのは、一時間ほど前だ。その時は、まだ青い空には、所々に白い千切れたような雲が浮いていた気がする。私も、ここではなくて、もっと公園の端――時計がある辺りに立っていた。
移動したのは30分くらい前だっただろうか。
それまでは、時間をつぶすために携帯をいじったり、いろいろしてたんだけど。
その携帯に、待ち合わせていた友人から、寝坊した!という切羽詰まった連絡があったのちょうどそのくらい。
久しぶりに買い物にでも行こうよと誘ったのは私で、待ち合わせ場所を駅前の公園にしたのは、私たちが住んでいるところに、おしゃれな店などひとつもなく、気合いを入れて出かけるならば、交通手段は電車しかないという理由からだ。
駅前の公園だって、休みだから、通勤通学の自転車もいつもより少ないし、人気もない。
もちろん、駅は無人だ。
何年か前にぼろぼろだった駅舎が建て直された時、駅前も整備され、公園広場も出来たけど、利用者は少なく、今だって、ここにいるのは私一人。
平日なら、もう少し人がいるんだけどね。
それに、1時間に1本しかない電車は、友人から電話がある前に行ってしまった。
このまま友人が遅れれば、その次の電車も逃すだろう。
珍しいよね、と私は思う。
真面目で時間に正確な友人が遅れることはほとんどない。ぎりぎりに待ち合わせ場所にきて、彼女を困らせるのは、いつだって私なのだ。
たまに早起きしたから、逆転しちゃったのかも。
そう思うと、なんだかおかしくなる。
あと、どのくらいで、彼女はここにたどり着くのだろう。
次の電車に間に合うんだろうか。
そんなことを考えながら、暇をもてあました私は、もう一度、飛行機雲でもあらわれないかと、青い空を見上げた。