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 74 パジャマ (夜の住人の物語)  

 そのパジャマはぶかぶかだった。
 大きすぎるし、色合いが渋すぎる。
 目の前にいる男が適当に買ってきたものらしいけれど、どう考えても女の子が好むデザインじゃない。
 でも、肌触りだけはいい。よくわからないけれど、高そうな生地を使っているのかな、と思う。
 だって、これまで私が持っていたようなパジャマとは全然違うのだ。
 お花模様で、大きなポケットが付いたパジャマはお気に入りで、大事にしていたけれど、そんなに高くなかったと思う。肌触りは悪くなかったけれど、生地を触った感じが全然違う。
 というか、ただの居候の子供に渡すようなものじゃないよね。
 新品みたいだし。
「どうした、気に入らないのか」
 男に言われて、そうじゃないと否定する。
「ええと、いいの? だって、高そうだし」
 男はそんなことは気にしそうに見えないけれど、一応聞いてみる。
 それに、男はお金には困っているようにも見えない。
 だって、男と暮らすことになってやってきたこのマンションは、とってもとっても高級そうだった。
 お友達の中でも特にお金持ちだった子の住んでいたマンションとも全然違う。
 なんだっけ、こんしぇるじゅ? なんていう人も生まれて初めて見た。
「お帰りなさいませ」の言葉とともに、笑顔を向けられたけど、ぼさぼさで長さもばらばらな髪に、薄汚れた服を着た子供を不審に思わなかったはずはない。
 しかも連れているのは、見るからに胡散臭い男だよ?
 親子にも見えないだろうし。
 私がそのことを尋ねると、男は少しだけ目を見開いて、すぐに笑いだした。
「気にするな。ここの住む者の半分は、碌でもない世界に足を突っ込んでいる連中だ。あの女も同類だよ」
 え、それはそれで怖いんだけど。
 というか、男と同類って。
「大丈夫だ。俺のモノだとわかっているのに、手を出す馬鹿はいない」
 うん、だからその言葉がもっと怖いんだ、というのは言っても無駄な気がして黙っておくことにした。
 どちらにしても、私にはもう行くところもなくて、外には怖いものもいっぱいいて、男と契約してしまったわけだから、結局はこの男の世話になるしかないのだ。


 とりあえず使えと言われた部屋を見回していると、男はさっさと出て行こうとした。
 もう用はない、後は好きにしろって態度だ。
 でも、一応これからお世話になるわけだし。
 だから、私は慌てて言葉を発するために口を開く。
「……おやすみなさい」
 そう声をかけると、ちょっと驚かれた。
「子供は嫌いだが、これはこれで面白いな」
 どういう意味なのと問い返そうとしたけれど、言葉を発する前に扉は閉まってしまった。
 本当に上手くやっていけるのかな。今日はちゃんと寝られるのかな。
 そう思ったけれど。
 ふかふかのベッドと、気持ちいい感触のパジャマのおかげで、結局私は朝まで一度も起きることはなかった。

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