365のお題

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  077 サボリ決定  

 こんな日には、仕事をしたくないって思っても、不思議はないよね?
 青空の下、神殿を囲むように広がる、花の咲き乱れる庭園で、私はそう思った。
 手に持つのは箒、着ているのは継ぎだらけのくたびれた服、足元は動きやすいように作られた足首まで覆う靴だ。
 汚れても濡れても気にならないし、動きやすい服装は、庭園の掃除にちょうどいい。
 最初こそ、胡散臭い目で見られたけれど、汚れても濡れても気にならないから、意地で続けていたら、今では誰も何も言わなくなった。
 なにしろ、ここの掃除は大変なのだ。
 朝早くから始めてもうすぐ昼という時間だけれど、広大な敷地の庭園の半分も掃除は終わっていない。
 掃いても、掃いても、沸いて出て来るような木の葉や花びらに、いい加減うんざりもしている。
 それに、今現在神殿に住んでいるのは3人で、そのうち一人は高齢の巫女様、もう一人はまだ小さな巫女見習いで、その役職故に、雑用をこなすことはない。
 さすがに自分のことは自分でするようにということになっているけれど、例えば掃除とか洗濯とか簡単な炊事仕事等は、私の仕事だ。
 もちろん、全てをこなすのは無理で、神殿から少し離れたところにある村から通いの手伝いはくる。
 庭師なんかも、それなりの頻度で訪れるようにはなっている。
 けれども、それはきっちりきまっているわけじゃない。
 実は、彼らが訪れるのは、雨が降った時だけだ。
 なぜならこの神殿は、雨の降った時しか表れない。
 それ以外の時は、結界に阻まれて、どうやっても見ることが出来ないのだ。
 古い結界の一種だというこれは、雨が降っている時だけ、外から中に入れる。
 よく仕組みはわからないけれど、一度入ってしまえば、雨が止んでも、内側から外へ出ることは可能だ。
 ただ、その時は、次の雨が降るまで、中には入れなくなるけれど。
 つまり、中から外に出ることは出来ても、外から中へは入れないって状態になっちゃうのだ。
 ああ、後、この結界は、巫女様に対して悪意があるものも弾くようになっているらしい。
 雨が降っていても、そういう人は中に入れない。
 とはいっても、そんな人は私はまだ見たことなかった。
 ここを訪れる人が少ないからかもしれないけれど。
 で、雨が多い土地柄だとはいえ、年に数回は今日みたいに晴れた日が続くことがある。
 食料は、万が一のことを考えて貯えたものもあるし、決して枯れないと言われている井戸と、庭園の端にある池のおかげで、水は豊富だ。
 それでも、不便なことがないわけではない。
 昔、うっかり結界から外に出てしまって、戻れなくなり途方にくれた経験もあるからね。
 その時は、たまたま雨の少ない時期だった。
 3日も好天が続いて、どうなることかと思った。
 ようやく雨が降り始め、神殿に戻った時には、幼い巫女見習いは癇癪を起こした状態で、それに振り回された高齢の巫女様は、倒れる寸前だったのだ。
 私も、溜まった洗濯物や、埃の見える部屋、手入れされていない庭や、ひどいことになっている台所を見た時は、ひっくりかえりそうになったけど。
 たった3日のことなのに、何事、ってね。
 まあ、私みたいな普通の人と違って、巫女様方は、手順を踏まなければ結界を通り抜けられず、何かあっても助けを求めることができないから、仕方ないといえば、そうなんだけど。
 あれ以来、結界があるだろう場所には近づかないようにしている。
 掃除も、そのあたりだけは避けているので、結界が見えず、その気配も感じられない私には目印になってちょうどいい。
 ………決して、手抜きしているわけじゃないよ。
 そう見えても、違うんだからね。
 誰もいないのに、いいわけするように呟くと、私はとうとう箒を手放した。
 そのまま、地面に寝転がる。
 そうやって見上げると、空はよく見える。
 やっぱり、どこにも、雲はない。
 この分だと、しばらく雨は降りそうにないだろう。
 ああ、早く雨が降らないかな。
 そうすれば、いつもの手伝いの人も来るし、生活に必要なものを持ってきてくれる人も現れる。
 そもそも、私以外にもう一人雇えばいいだけの話なのに、辺鄙なところにあるうえに、仕事が大変すぎて、みんな働きたがらない。
 私だって、元は本神殿の方で働いていたのに、前任者が倒れちゃったものだから、急遽こっちに配属になってしまった。
 高額な給料に釣られたってこともあるけどね。
 でも、そろそろ単調な生活に、疲れはじめてもいる。
 刺激も変化も、なさ過ぎなんだよねえ。
 やっぱり、一番大変なのは、掃除だし。
 神殿は小さいとはいえ、結構湿っぽいから、それはそれで大変だし。
 まあ、本当は、そこまで気合いを入れて掃除する必要があるかといえば、微妙なんだけれど、いつでも外へ逃げ出せる私と違って、生きている限り、ほとんど結界内だけで暮らすまだ幼い巫女見習いのためってのも、ある。
 一番下の妹と、同じくらいの年なんだよね。
 それしか見ることはできないのに、見た目が悪い庭だと、寂しいだろう。
 ………なかなか思うようにはいかないけどね。
 結局、私は終わらない掃除の続きをあきらめて、青い空の下、少しだけ昼寝をすることにした。
 起きたら、いつもどうり、頑張るよ。

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