365のお題

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  163 出会い (夜の住人の物語)  

 子供だった。
 目の前にいるのは、肌も青白く痩せていてこれといって特徴もない存在だった。
 だが、閉じこめられて泣くたくさんの子供の中、一人だけまっすぐに俺を見ていたのだ。
 薄汚れ、髪は短く切られているが、少女だとわかる。
 立ち止まったままでいる俺に、視線を外さず近づいてくると、部屋と廊下を仕切る格子から身を乗り出すように俺を見上げた。
「こんなところまでやってくるなんて、あなたは誰?」
 子供らしくない言葉で呼びかけられ、俺は顔をしかめた。
 細められた目が、俺ではない何かを見ているようだ。
 もしかしたら、俺の周りに漂う『何か』を見ているのかもしれない。そうだとすれば、面白いことだが。
「……死人、使い?」
 やがて少女が出した答えに、俺は笑う。
「だったら、あの男の敵なのね。……あの男を殺しに来たの?」
 迷うことなく、正解までも言い当てる。
「そうだ、と言ったら?」
「協力してあげる」
「協力?」
「あなたがどれくらい強いのかはわからないけれど、あの男に会うのは簡単じゃないわ」
 ここにいる大多数の子供とは違い、こいつは自分が何のために連れてこられたのかわかっているようだった。
 彼女の言う「あの男」。そいつは、己の力を過信し、贄として子供を使って異形のものを呼びだそうとした存在だ。
 俺が依頼を受け、その命を絶つべき相手でもある。
「あの男がいる場所までは、いろいろ罠が仕掛けてあったり、結界が張ってあったりするのよ。あなたなら、もしかしたらたどり着けるかもしれないけれど、とても時間がかかると思う。ここはじめじめしているし、空気も悪いし、さっさと終わらせたいでしょう」
 そう言いながら、少女は両手を合わせた。
「この子を貸してあげる」
 少女が開いた手の中に、いつのまにか蝶がいた。
 かすかに燐光を放つ、白く大きな蝶だ。
「正解の道を教えてくれるよ」
「見返りはあるのか?」
「魂をあげる。……死人使いなんでしょう?」
 お買い得だと思う、と無表情なまま言う。
 たしかに、集められた子供達の中でも、少女の力は強そうだ。死んだ後にも、十分役に立つだろう。
「あなたは契約もなしに、私たちを助けてはくれないでしょう。ここで終わりを待つくらいなら、少しでも外に出られる可能性を選ぶ」
 どうやら、俺の本性までも見抜いているようだ。
 俺は、金の絡まない人助けなどする気もないし、慈悲深くもない。例え目の前に死にかけている人間がいても、契約外であれば、見捨てることさえ平気だ。
「お前を外に出す前に、殺してしまうかもしれないぞ」
「こんなところで、あの男に殺されるよりはマシ」
 言い切る少女の顔はやはり無表情だ。だが、目の奥に見え隠れするのは、俺と同じ闇の色。
 同類なのだと、確信する。
 光ある場所に背を向け、闇と共に生きていくことを選んだのだ、この少女は。
「いいだろう」
 子供は嫌いだが、めずらしく俺の興味を引いたのは確かだ。このまま、見捨ててしまうのももったいない。
「契約してやる」
 俺の言葉に、初めて少女は笑った。

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