星のまほろば

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  プレゼント  

 いつのまにか、部屋に掛かっていたカレンダーの『11』の部分にピンクのマーカーで○印がついていた。
 しかも、そこには『水支くんの誕生日!』と書いてある。
 さっきまで―水支がここへ来るまでには、なかったものだ。
 火足が席を外した少しの間に、彼が書いたものだというのは一目瞭然だった。
「なんだよ、これ」
「あ、誕生日プレゼントの催促」
 悪びれるようすもなく言ってのける従兄の姿がそこにある。
 最近は、今まで離れていた時間を埋めるかのように、暇を見つけては火足のところに訪れていた水支だが、誕生日の1週間前になる今日まで、一言もそのことに触れなかった。
 それを、この時期になって、こんな子供じみた態度で示すのはどういうわけなのだろう。
「……普通、わざわざ人の部屋に来て、いやがらせみたいに、んなことしねーだろ」
「黙っておくと、そのままなかったことにされそうだし?」
「う……」
 反論できない。
火足は、決して水支の誕生日を忘れていたわけではないのだ。
 正直な本音は、照れくさい、だ。
 この年になって、マジメな顔で『プレゼント』など渡せないというのが火足の心境である。
 プレゼントを選ぶという行為自体、苦手なのだし。
「誕生日は火足を一日貸切ということで……」
「いやだ。つうか勝手に決めんな!」
「即答?」
「当然だろ! 大体この日は学校があるし、部活があるし、水支と会ってる暇なんてねーよ」
「つれないねー。ケーキくらい一緒に食べてやろうという気にはならないかねー」
「あー、うるさいうるさい」
 そういいながら背を向ける。
 ほんとうは、ちゃんと祝いたい。
 言葉にして『おめでとう』と言いたい―子供の頃のように。
 だが、それを実行するとなると、どうしても照れが先にくる。
「11日は迎えに行くから、デートしよ」
「……いつ部活終わるかわからねーし」
「待ってるから」
「恥ずかしいっつーの!」
 あの目立つ車で、目立つ水支が校門の前に立っていることを想像すると、ほんの少しだけ眩暈がした。それだけは、絶対にやめてほしい。
 そう告げようとしたとき、背中越しに、真剣な声が火足の名前を呼んだ。
「……火足。俺は、お前に祝ってもらいたいんだ。お前の言葉で、『おめでとう』って言ってほしいんだ」
 そんなことを言われたら。
 いや、そんなことを言われなくても、火足自身もそうしたいのだ。
「いやなら、無理にとは言わない」
「いやじゃねーよ……」
 そんなわけがない。
 大切で、大事で……誰よりも深く火足の心の中に住まう存在なのだから。
「仕方ないから、つきあってやる」
 怒ったような口調になったのは、照れ隠しだった。
『……素直じゃないね』
 という水支の声が聞こえたような気がしたが、敢えて何も言わなかった。
 素直じゃないのは、お互い様だろうから。
「そのかわり、俺の誕生日には、水支が貸切だからな!」
「はあ?」
 と言ったきり、水支は無言になる。
 不安になり振り返ると、にやにや笑いを浮かべた水支の顔が目の前にあった。
 その何か企んでいるような眼差しに、自分が言ってしまったことが、取り返しのつかない言葉だったような気がする火足だった。
「そんなのでいーの? つうか、そうしたら、お前が大変だなー」
「ち、ちょっと待った! 今のなし! 取り消し!」
「聞こえない聞こえない〜。じゃ、俺帰るから」
 妙にご機嫌な様子の水支が部屋を出て行くのを呆然と見送りながら、思った。
 早まったかもしれない、と。

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