クリスマスなので。
プレゼントくらいあげた方がいいかな、と思って、お店を覗いてみた。
腕時計は高校の入学祝に上げたし、服は好みがうるさいし、甘いものは苦手だし。
欲しがってたは、今年の誕生日の時、プレゼントした。
もちろん、あのそつない性格の隆哉だ。何を渡しても表面的には喜ぶに決まっている。だけど、いらないものを上げるのも癪に障るしなあ。
「困ったな」
今までつきあっていた人には、そんなに悩んだりしなかったのに。
プレゼントひとつで、こんなふうになっている自分が不思議だ。
うん――たぶん、プレゼントだけじゃない。
たとえば、二人で出掛けたりとか、手が触れ合ったりとか。
そんな些細なことでさえ、とても楽しい気分になる。
隆哉を特別な意味で好きだと気付いてから、そんなことの連続だ。
「何が欲しいのかなあ」
直接欲しいものを聞けばいいのかもしれないが、なんだかそれも照れくさい。
今更って、思いもある。
困ったよホントに。
大体ね。
隆哉の好きなもの。
知っているようで、意外に知らない。
大きくなってからは、クリスマスにプレゼントを渡しあうことはなくなったしね。
最後のクリスマスプレゼントって、隆哉が小学六年生の頃じゃなかったかな。その後のクリスマスは、いつも隆哉は誰かと一緒だったし、私もなんとなく遠慮していたところがあった。
えーと。小さな頃はどうしていたんだっけ。
あの頃の隆哉ってば、子供のクセに小難しい本ばかり読んでいたんだよね。
なので、隆哉がくれるものって、図鑑とか私がちっとも読まないような本ばかりで。
せっかくもらっても、殆どそのまま部屋の隅に置いてあったはず。
ちっとも開かないその図鑑が可哀想だって、隆哉に怒られたこともあった。
大事にはしているって言う私に、意味がないって説教したのよ、確か。
反対に、私が隆哉にあげたのは、どんぐりとか、図工の時間につくった粘土細工とか、手作りの紙飛行機とか。
ちっともお金のかかってないものだったような気がする。
そんなものでも、もらって喜ぶ隆哉を見て、私も嬉しくなったんだ。
でも、あの頃と今は違う。
今、隆哉がもらって一番喜ぶものってなんだろう?
わかっているようで、やっぱりわからない。
結局、その日、プレゼントは決まらなかった。
クリスマス当日。待ち合わせ場所には、30分前についてしまった。
時間に遅れるのはいやなので、それはいいんだけれど。
プレゼントが決まらないまま、この日を迎えてしまったことが、なんだか悔しい。
そのくせ、いつもより気合の入った格好をしている自分が少し笑える。
相手はあの隆哉だから、見劣りしない程度に綺麗にしていこうという考えもあったんだけど。
「あれ?」
ふいに視界の端に映った白いものに、空を見る。
雪だ。
寒いとは思っていたけれど。
ホワイト・クリスマスってやつね。
この日に雪が降るのって、何年ぶりなんだろう。昔、クリスマスに大雪が降って、二人で仲良く雪ダルマを作ったことがある。鼻の頭を真っ赤にして、手袋が濡れて重くなっても、必死で。完成したときには、二人抱き合って喜んだんだ。
あの頃も、今と同じように隆哉と一緒にいることがとても楽しかった。
感じる想いは違うけど、隆哉が大事で大好きだったことに、変わりはない。
「そうだよね」
そのことが、とても大切なのかもしれない。
私にとっても、隆哉にとっても。
白い雪が舞い落ちるのを眺めながら、そんなことを考える。
隆哉が来たら、最初に何を言おうかな?
メリークリスマス?
それとも。
それとも、今まで言えなかった言葉を口にしてみようか。
好き――。
隆哉のことが、好きだって。
ちゃんと伝えてみようか。
隆哉は、どんな顔をするんだろう。
驚くだろうか。
笑うかな?
どちらでもかまわない。
どちらにしたって、とっくに隆哉を好きだってことは、ばれているとは思うから。
それでも、口にして、ちゃんと伝えることが大切なはず。
もしかしたら、それが一番のクリスマスプレゼントかもしれないから。
それから、今まで、待たせた時間だけ、いっぱいキスしよう
そのあと、どうするかはその時考えるし。
そういうクリスマスも、楽しいだろうから。
待ち合わせの時間まで、あと少し。
私は、幸せな気持ちで、その瞬間を待っていた。
とりあえずは、すべての人に、メリークリスマス! かな?