食事を終えたあと、悠基と合流した。
彼の方もうまくいったのだろう。
疲れているようではあったけれど、いつになく満足そうな顔をしている。
報告のためにドームに戻った時には、辺りはすっかりと明るくなっていた。もう昼が近いのだ。
面倒くさい事後処理の手続きを終え、ようやく仕事から解放された私は、悠基と別れた後、自宅には帰らずに、庭園に顔を出すことにする。
狩りが済んだあとも、いやなことがあった後も、戻ってくる―――戻りたいと願うのは、いつもこの場所だった。
かつて暮らした家でもなく、義兄の元でもない。シャルギルと暮らす部屋でもなかった。
落ち着くというのもあるし、やはりシャルギルの匂いのするここが、私は好きなのだ。
庭園に入ると、見慣れないものが目に入った。
ちょうど私の身長と同じくらいの植物。ふわふわと綿帽子のような毛が生えた葉に、緑色のやはり綿毛のような花。
出て行く時にはなかったはずだ。
だとすると、植えたのはシャルギル?
そうだと思う。
この庭を変えるのは、いつも彼だ。他の誰にもいじらせることはない。
植物に近づくと、根本に淡い緑色をしたカードが置いてあった。
『ハルへ。新しい植物を手に入れたのでプレゼントだ』
素っ気ない文面のあとにシャルギルの署名がある。
彼は、私が仕事の後は、必ずここへ戻ってくることを知っている。こうやって、緑の草の中でぼんやりとするのが好きなのだと言って以来、この庭園には、『緑色』の植物が多くなった。新しい植物を植えるたびに、贈り物だと言って私に見せてもくれる。
そんなときは、うぬぼれていいのかなと思う。
尊大で、我が儘で、誰よりも綺麗なあの人が、私を好きでいてくれる証拠だと。
そう信じていいのだと言ってもらえたような気がするのだ。
綿帽子のような花の匂いをかぎながら、目を閉じた。
淡い匂い。
淡い、色。
あの人を思わせる、優しい―――緑色。
それを思い浮かべながら、私は幸せな気持ちで、目を閉じる。
誰かの手が、私の頬に触れている。
ほんの少しだけひんやりとしていて、心地いい。
この指先は知っている。
「シャル?」
目を開いた瞬間、見えたのは淡い緑の瞳。
大好きな、私の緑。
「お帰りなさい、シャルギル」
「ただいま、ハル」
彼の綺麗で優しい声は、今は私だけのものだ。
そのことが嬉しくて幸せで、私は彼に笑いかけた。
不思議なことだけれど。
1人の時は、いつだってなくなることのない空腹感に、泣きたくなることだってあるのに、側にシャルがいるだけで、辛さも苦しさも薄れていく気がする。
声を聞き、顔を見て、笑いかけるだけでいいのだ。
飢えは消えることはないけれど、どこか暖かい気持ちで心の中が満たされていくのがわかる。
「プレゼント嬉しかった。ありがとう」
私の言葉に、シャルは優しいキスと抱擁をくれる。
何よりも嬉しい答えだった。
例えどんな『好き』だったのだとしても、シャルギルが私を必要としてくれているのには間違いはない。
家族でも、友人でも、恋人でも、なんだっていい。あなたが側にいてくれることが、私の幸せなのだ。
小さい頃思い浮かべたありきたりの幸せとは少し違うのかもしれないけれど。
とりあえず、今はそれで十分じゃないかと思う。
この夢のような世界が、ずっと続いてくれればいいと、いつだってそう願っている。