足音が聞こえる。
古ぼけた家は、歩くたびにぎしぎしと大きな音がするが、足音の主である宙さんはあまり気にしていないようだ。
俺が、昼寝といいながら、実は狸寝入りしていることを知っているからだ。
そういうところは、彼女はまるで遠慮がない。
昔から――それこそ遠い昔から、いつだって彼女は俺に対して遠慮がなかった。
初めて会った時は生意気だったし、次に会った時は俺のこと忘れていたし、その次に会った時は些細なことで大笑いされた。
でも。
自然と口元が緩んでくる。
いつだって、彼女が側にいると心地いい。
出会ったときから今まで、彼女の態度は変わることはなかったし、これからも同じなんだろうと思えることが嬉しい。
もちろん、彼女は俺の職業を知っているので、気遣ってくれることも多いけれど、大抵は普通の人を相手するように接してくれる。
文句は言うし、優しくないし、遠慮もない。
でも、俺をちょっとだけいい人と言ってくれて、甘えさせてくれて、張り飛ばしてくれる。
それだけで、なんだか幸せだと思えてくるのだ。
ああ、とても普通だな、と。
縁側に寝転がってから、もう随分立った。
家の中を移動していた足音が、段々近づいてくる。
「椋一さん」
足音は俺の側で止まり、名前を呼んだ。
「椋一さん、こんなところで寝ていると風邪をひきますよ」
心配するというより、どこか呆れたような声だ。
そういうところも彼女らしい。
俺は、起きようか、このまま寝たふりをしようか悩みながら、彼女の次の言葉を待つことにした。