「何描いてるの、宙さん」
縁側で一人、膝の上のスケッチブックを前に唸っている少女に、俺はそう声を掛けた。
いつものように、庭に直接入れる門からやってきた俺に、宙さんは元気のない顔を向ける。
「こんにちは、椋一おにいさん。陸おにいちゃんなら、まだ帰ってないよ」
「ああ、ここで待ち合わせしてるから」
そう伝えながら、覗き込むとそこにはあまり上手とは言えない絵があった。
たぶんどこかの景色なんだろう。でも、何かが違うというか。デッサンが狂っているわけでもないのに、どこか不思議な印象を受ける。
俺は、恐らく遊園地であろうその絵を、じっと見つめた。
まるでおもちゃ箱をひっくり返した時みたいに、ごちゃごちゃしていて、でも色だけは鮮やか、そんな感じだ。
うまくはないけれど、一生懸命描いたのだろうとわかるから、少しだけ口元が綻ぶ。
「……椋一おにいさん、無理に笑うの我慢しなくてもいいよ」
「いや、うん。ええと、独創的だね」
別に絵の下手さを笑ったわけではないけれど、宙さんがあんまり頬を膨らませるものだから、ついそんなことを言ってしまった。
「無理に誉めなくても大丈夫。陸おにいちゃんも、これが何なのか当てられなかったし」
陸のことだから、一生懸命考えたんだろうが、確かに俺にもこれが風景ってことしかわからない。
でも。
「俺も、宙さんと同じだよ。絵はうまくないんだ。陸にも下手って言われてるから、一緒だな」
実は、俺だって絵のセンスはゼロだ。昔から美術の時間は苦手だったし、課題で提出した絵にいい評価をつけてもらったことはない。
「椋一おにいさんも絵が苦手?」
「苦手っていうか、全然駄目。自分で描いていて情けなくなるよ」
宙さんよりも下手だって自覚もある。
なにより、色遣いが駄目だ。見たままの色を画用紙にのせたはずなのに、まったく別のものになってしまう。
心が清く正しくない証拠だなどと、陸はよく冗談みたいに言っていたが、半分は当たっている気もする。後の半分は――単に下手なだけだと信じたい。
「でも、なんだか楽しそうだね。宙さんみたいだ」
上手な絵じゃないけれど、暖かい色遣いも、丁寧に書き込まれた花も、どこか楽しそうに見える。
「俺は好きだよ」
そう言うと、宙さんはぽかんと口を開いて、俺の顔を見た。思いがけないことを言われたとでもいいたげな目だ。
そして、そのまま顔が赤くなる。
「り、椋一おにいさん、変わってるって言われてない?」
そういいながらも、その後続いた小さな『ありがとう』の言葉に、俺は少し笑って、それから彼女の隣に腰掛けた。